愛でた花、咲き誇れ
4 風吹けば
こんなラビ初めて見た。
それが二人の心の中の声だろう。
食堂というたくさんの人が居る場所で、声を殺しながら涙を流していた。
そこにいた二人にしか見えなかっただろう。
しかし、その涙は二人を魅了した。
「ラ…ラビ…」
とアレンはまた肩に手を当てた。
――ピクッ
ガタンと大きな音がしたと思ったら、神田がラビの腕を引っ張りながらアレンの前から姿を消した。
こんな顔、他の奴に見せられるか!!
神田は怒りすら覚えた。
いつものラビじゃないのは気づいていた。
しかし、まさか泣くとは思っていなかった。
どうでもいいはずなのに、神田は怒りを納めることは出来なかった。
――バタン
「おぃ。いい加減にしろよ。何で泣いてんだよ。」
神田は怒りを抑えたように静かに話しかけた。
「…ぅ、…グスッ…」
声を出そうと何とか息を整えていた。
「何なんだよ…」そう呟いた。
――ふわっ
ふと気がつくと、神田の前にはラビが居た。
「どうしたんだよ…」そう言って手を伸ばそうとした。
――バシッ…
その手は払われ、その代わり押し倒されていた。
訳の分からずにラビを見詰ていた。
まだ涙が残っていた。
口元が動き、何かを呟いた。
しかし、神田には聞き取れ無かった。
「あっ?」
そう聞き返すために口を開いた。
二人の間にもう隙間は無い。
あるのは実態のないもの…
その正体にまだ二人は気づく予定はない。
唇から離れたラビがまた口を開いたが、呆然とする神田にはまた聞き取れなかった。
その言葉を神田が聞くにはまだまだ時間が掛かるだろう…
『お前をくれよ…』
『………愛してる。』