チョコレイトB

 

 

男は俺達に今まで通りに働かせた。

俺はどうして良いのか分からず、今まで通り過ごした。

父さんは一向に帰ってくる気配はなく、母さんは夜な夜な泣いていた。

 

今まで笑って暮らしていたのに…

いきなり出てきたこの男が憎くて仕方がなかった。

 

母さんの働いている姿を見て、目の前が曇ってきた。

今まで泣いたことなんかない。

男が泣くなんて恥ずかしい。

 

なのに…

 

なのに…

 

許さない。俺はこの男だけは許さない。

そう思い、男を睨んだ。

男は母さんを見詰めていた。

 

――ゾッ

 

嫌な予感がした。

母さんだけは守りたい。そう思った。

 

どれだけの間睨んでいたのだろう。

俺の殺気に気がついた男は母さんから目を逸らし、俺を見た。

 

「おい!!どうした。帰ってきたんなら着替えて来い。」

俺の目に少しも怯まず、男は言った。

 

何で着替えて来なければならないのかは分からなかった。

だが、男の話は無視できない。

 

「すみません…今着替えてきます。」

そう言って俺は自分の部屋へと向かった。

 

その途中、櫂薇とすれ違った。

 

「大丈夫?アイツ変な噂あるみたいよ…」

ボソボソっと言った櫂薇の声はいつも以上に色っぽく感じた。

 

櫂薇の言っている意味があまり分からず、俺はそのまま部屋へ向かった。

 

 

軋んだ心が何かを告げる…

それには耳を傾けず、俺は前だけ見続けた。